小説「玉手箱」 小手鞠るい

初読みの作家さん。
ここの名前を変えてから、ネットで気にとまるようになっていたので、
このたびのお目もじ。

しかしですね、散見するキーワードから「優しい恋愛小説の名手」という印象があり、
箸やすめのように、軽くさらさらと気持ちよく読めるかと思ったんですが。
勘違いでしたかね。それとも自分のチョイスがたまたまだったのか。逆襲か(謎
ここ最近読んだ中で、一番むごたらしい本でした。消耗するくらい。

中編3本。テーマは生殖、で良いでしょうか。

冒頭「卵を忘れたカナリヤ」

あまりにも生々しい不妊治療の話。
煽るような感情的な筆致ではなく、淡々と理論的に、それが却ってグロテスクに、
心身ともに傷めつけられてすべてを失っていくヒロインの地獄を描写する。怖。
身も心も痛い。普通に生きている人の無神経さも淡々と責めつけられる感じ。
欲しいのに授からない人の苦しみは、配慮するよう努力せねばと常日頃心がけるが、
ああ、どうすりゃいいのかなあ、と、絶望的な気持ちになることもある。
庶民の暮らし、そんなに大して巨大な楽しみもない中で、
子どもにまつわる喜びと幸せは、ささやかながらも強い光の宝物だ。
それを楽しむことが他者を傷つける場合、どのあたりまで遠慮すれば良いのか。
ここまで病まれると、もう何をどうしたら良いかわからなくなる。
ただ、こういう本はあっても良いと、積極的に思う。
人は誰しも自分の痛みしかわからないのですから、
それぞれ疑似体験のうえで、見える風景が変われば対応も変わるでしょう。

表題作「玉手箱」

これも不妊治療と、その先の代理母の話。
物語としては、これが一番良くできていると思います。
生々しさを突きつけられるのでなく、一般的な距離感で筋と文体を味わえる。
オハナシとして起承転結もちゃんとあり、救いもあるので消耗も少ない。
3作の中でどれかだけ読むなら、断然これがお薦めでしょうな。

ラスト「おとぎ話」

主題は「逆」と言うか、生殖としての性を嫌う奔放なヒロインの話。
前の2作と違って、唐突にエロかったりして、切り替えに困る。
生殖が隠しテーマだろうから、一貫性はあるんだろうけど、どうしてもってこともない。
で、あまり印象がない。

というわけで、軽くは読めなかったし、正直イヤな気持ちにもなりましたが、
得るものもあったと言えばあったので、もう少し読んでみようかと思います。
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Commented by ココロン at 2013-07-03 00:23 x
なんでこの作家はこんなきわどい作品を書くのか?

わたしは正直言ってギブアップでした・・・。
読後いろいろ考えてしまうような作品が
小手鞠さんには多い気がします。

小手鞠さんって、他の作品もこんな傾向なのかと思って
いろんなサイトの記事とかを見ていたら、
http://www.birthday-energy.co.jp/
で小手鞠さんを論じてる記事を見つけました。

「ざわめくような強靱な遊び心」が影響して、どんな作品が
今後生まれてくるのか・・・。
こんな作品ばっかりなのかな。
Commented by michiko0604 at 2013-07-04 18:25
コメントありがとうございます。

小手鞠作品は結局、この後2冊くらい読みましたが(ロング・ウェイともう一つ。タイトル出てこない)、特に感想を書くほどでもなく流れて行ってしまい、あんまり語る言葉もなく、申し訳ないです。

この「玉手箱」に限って言えば、確かに考えさせられる部分が多々あり、不快な気分が残ったとしても、考えさせられたこと自体は、自分にとって有益でした。

読み手の感情を良くも悪くも揺さぶる力がある、というのはスゴイことだと思います。

リンク先、拝見させていただきました。風水みたいな部分は全然わかりませんでしたが、小手鞠論はなかなか辛辣ですね。

純文学も大衆小説も、ラノベも漫画もポルノ小説も、読む人がいて書く人がいるわけですから、私などはその中から自分の好みにあうものを拾っていくだけです。
by michiko0604 | 2009-11-30 22:55 | | Trackback | Comments(2)