2013年 04月 07日
小説「紙の月」 角田光代
ほかの作品のようにはすぐに思いつかず、読了後に調べたら、
一億円横領女子行員「伊藤素子」の名前に聞き覚えがあった。ああ、あったなそんな事件。
で、いつもながら、事件よりも小説は、切なくてやさしい。
冒頭は、国外逃亡中のヒロイン・リカの薄い独白から。
その後、彼女にかかわった3人の友人から見た薄いリカ像が重なり、
リカの少女時代からの物語がはじまる。
それぞれに、お金にからんだ辛い状況がからんで、厚みが加わる。
リカの行動は、「男に貢ぐために横領」というシンプルさでは語れなくて、
どちらかという自己実現、自分探しに近かったような気もした。
欲しかったのが、あの早朝の駅で感じた至幸感、万能感なのだとしたら、
一瞬で雲散霧消するようなものだとしても、彼女はそれを手に入れたということか。
夫の言動への僅かな引っ掛かりから、
専業主婦だったリカは就活をしてパートに出始め、認められてフルタイムに移行していくんだけど、
その過程がとてもリアルで自分にとって興味深く、面白かった。
こうして顧客に愛されて成績を上げ、会社にとって有益な人材になっていく、
それだけじゃダメだったのかなぁ、と、
この後確実にみんなの信頼を裏切っていくことが残念だった。
一線を越えた後の転落は、蟻地獄のよう。怖い。
でも、暗黒ではないと思う。
友人三人のお金の不幸も、悲しいけれども全てが絶望ではないと思いたい。
「私を見つけて」「ここから出して」
いつもながら、角田氏は上手。
どんどん引き込まれて読まされる。素晴らしい。
お薦めですね。
by michiko0604
| 2013-04-07 22:15
| 本
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