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小説「パイロット・フィッシュ」 大崎善生

アジアンタム・ブルーの続編・・というか姉妹編?
時間軸はこちらの方が後だけど、書かれたのは先なのかしら。
比較して言えば、アジアンタム・ブルーよりもずっと良かった。

昔「ノルウェイの森」を読んだときの感覚に近い。
その亜種的な作品は、これまでもずいぶんかすっていったんだけど、
これは一番近いような気がする。内容が似てるという意味じゃなくて、
自分の中に喚起された感覚が近い、という主観ですが。

一度めぐりあった人とは、二度と別れられない。

まるで全く忘れてしまう人もそりゃぁいるだろうし、
かかわりが浅く、何の影響も与え合わないまま離れていく人も。てかそのほうが多いけど。
そういうことではなく、誰しも、このお話に触れたときに、
自分の記憶の湖から、うかびあがってくる人が必ずいるのではないか。
それはやっぱり、かすかに痛みを覚えるほどになつかしく、
つまりはどこかよじれるように切ない、のではないかと思いました。
そういう力のある小説。

内容について細かい話になるけど、
アジアンタム・ブルーで、あれほどの悲しい体験をしているのに、
それにひとつも触れられていないことに、最初軽くショックを受けた。
もちろん、ひとつの別れが、その後の人生を歪めてしまうほどに
決定的な影響を与えてしまうような話を、私はあんまり推奨しない。
片山作品で比較的好きな「もしも私がそこにいるならば」なんかはそんな話で、
ひとつの物語としてはそれでいいのだけど、
リアル人生に置き換えてみれば、それはあまりに無残だと感じる。
それなのにわがままで申し訳ないんですけど、
あんなに、引きちぎられるようにして別れた人のことを、
山崎さんったらもはや全然思い出すこともなく、
20歳の頃の恋人との想い出に浸る一方で、
リアルタイムでは、半分の年齢の若い娘と、
99歳まで一緒に生きようという勢いで幸せ一杯なのかよ、みたいな。
でもまぁ。この物語が語られた上で、記憶の湖に沈む大きな別れ、
今の山崎さんに、何がしかの大きな影響を与えた人の物語ということで、
改めてアジアンタム・ブルーが語られたんだろうな、と、納得はしました。
だからやはり、時間軸ではなく、先にパイロットフィッシュを読んだ方が良いですね。

さらに細かくなっちゃうんですが。しかも微妙に下世話かもですが。
山崎さんと由希子さんの、19年前の別れについて。
その、起こったことについて、彼氏に対しては、弁解の機会すら与えずに
問答無用で終わっちゃうほどの致命的な出来事だったのに、
相手の女友達とは、前科も一回じゃないのに懲りずにその後もずっと付き合い続けて、
リアルタイムでダンナまで寝取られてるっていうのは、どうなんですか由希子さん。
そうなるともはや自業自得のような気がします。
山崎さんの一度だけの裏切りが許せなかったわけではなく、自責もこめて、
大切な関係だったからこそ、濁ることが耐えられなかったということだとしても。
繊細すぎ、清らか過ぎていつか壊れる運命だったんですね、必然的に。
でもそれも、せつなさを増幅させる大昔の想い出の要素なのでした。
by michiko0604 | 2007-04-21 23:31 | | Trackback