小説「メルキオールの惨劇」 平山夢明

図書館の本がまだあったのだが、なんだかちょっと疲れた感じで気合を入れたかったので、
ついフラフラと買ってしまいました。悪趣味な本を。元気つけようと思って。
しかし、これが意外に・・・と言っては失礼かもだけど、
あの「横メルカトル」に比べれば、はるかに普通の、読みやすい話だった。
そして、素で、ものすごくおもしろかった。あっという間にぐんぐん読めたし先が楽しみで。
さらに、想定外に「いい話」だったのも収穫。

まぁ、そうは言っても「比較的」なので、エグさも充分。ハルキホラー文庫だし。
不幸コレクターに依頼された「俺」が、調査に赴いた先の、異様な家族。
自分の三男の首を切断した女、白痴の怪力長男、14歳で白髪の次男。
「俺」は家族の秘密と確執に巻き込まれて、後戻りできない闇に落ちていく。
・・・というような、とっても怖いシチュエーション、なのですが。

設定はかなり強引だし、まぁそれはホラーだからしょうがないけど、
中盤で張られたはずの伏線、「俺」の殺人衝動の謎は、どうなっちゃったわけ?
「メルキオールの善根」の結末は、聞かせてもらえないんですか?・・
とかに代表される、微妙に納得行かない展開も散見。収束してないじゃんよ。

しかし、いつも気になるそこいらへんが、あまり気にならない。
怖くてキモい上に荒唐無稽な話なのに、全体からは上質のユーモアが醸されてる。
上質といっても、それは、気が利いてるってことで、趣味は悪いけど。
なにより比喩的な言い回しがとても豊か。これは見習いたいと思った。
「俺」はシニカルな言葉のセンスにあふれた、とっても魅力的な「能書きり(?)」。
「よく警官Aと警官Bに分離されなかったものだ」とか、不覚を取って笑ったし。

『こんなに失望したのは、女の胸を裂いた時に、中から饅頭の王様みたいな
 生食入りのシリコンパックが飛び出して以来。 
 あまりのことに頭に来て、空港の便所にまるごと詰めてやった』
とか、笑うような状況じゃないんけど笑っちゃう。どうしましょう。

そしてこれはメジャーな感想だと思うが、白痴の朔太郎が、ほんっとうにキュート。
「Ωの聖餐」をちょっと思い出す、グロテスクで残酷で凄惨なのに、
時に優雅で条件付で明晰で、どこか崇高ですらある。しかもユーモラス。

最初の頃にちょっと、「うっ動物虐待あるのか、ダメかなこれは」と引きかけたが、
なんだかあまりにもシュールなせいか、入れ込みすぎず作り話として読めたのも良かった。
今回も思ったけど、私は、人間が酷い目に会う話は結構平気だけど、
動物虐待はキビシイ。いずれにしても活字限定で、映像ではみんなダメだけども。

すっごい後味悪いっていうレビューもあったけど(でもそこが良いと)、私は良かったと思う。
また比較になるが「横メルカトル」に比べて、人の心の情緒的な部分があって、
殺しあっても愛があるし、結局はそれでしあわせだったようにも見えた。
それこそがホラーだという読み方もあると思うので、そのへんはお好みで。
死ぬのと生きるの、どっちがホラーですかね。散文的に言えば。

自分にとっては、想定外のヒットでした。おもしろかったです。
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by michiko0604 | 2007-06-28 00:18 | | Trackback | Comments(0)