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小説「死刑囚 永山則夫」 佐木隆三

この人について知っていたのは、未成年のとき複数の人を殺して、長い裁判を受けて、
その間に勉強して別人のように「いい人」になって、本をたくさん書いて獄中結婚をして、
それでもついに死刑判決は覆らず、何年か前に死刑執行された、という程度。
折に触れニュースで取り上げられていたので、軽い関心はあったんだけど、
事件の詳細からしてよく知らず、機会があればちゃんと把握してみたいと思ってた。

で、同僚が読んでいたのを借りて、駆け足になっちゃったけど、読んでみた。

ドキュメンタリーではなく小説、とのことで、人物の心理描写なんかは
多少演出や脚色もあるらしいのだけど、事実関係や裁判の様子も克明で、
ものすごい綿密な取材の模様に、常々感服させられます。
リアルタイムに自分の近所で起こった出来事のように、臨場感もって迫ってきた。

で、感想を簡単に書いちゃいますが。
この事件の詳細を知ることで、自分、死刑廃止論に多少なり傾くかな?
って思ったけど、そういう方向には行かなかった。
永山さんは、獄中ですごく賢くなったけれども、「いい人」になったとは思えず、
殺した4人の絶たれた人生に対しての責任も、果たせてはいない。
というより、そんなものは果たせるわけがない。
環境が悲惨だったことは確かに気の毒で、社会全体に責任があるのも本当かも知れない。
でも、長い時間と手間をかけて、こういう人をある程度更生させられたことは
奇跡なのかも知れず、それはそれで尊いのだろうが、
それって、社会の義務なのだろうか?という疑問は消えなかった。
社会って、そんなに余裕があるのだろうか?
多くはないパイは、そういうことに割かれるべきなのか?

「犯人が悔い改めて人の心を取り戻し、真人間として更生した時点で処刑する。
 そこではじめて、何の咎もなく殺された人間の無念と、天秤が釣り合う」
というのは、光市母子殺害事件の遺族、本村洋さんの持論だったと思うが、
これはあまりに苛烈すぎ、現実味が薄い机上論だとしても、
私はどちらかというとこの意見の方に気持ちが近く、
この本を読んでも、それが覆ることはありませんでした。残念かというと、そうでもない。

でも、読んでよかったです。
by michiko0604 | 2007-07-25 01:02 | | Trackback