小説「最後の将軍 徳川慶喜」 司馬遼太郎

普通の文庫本一冊にまとまった、内容濃く読みやすい慶喜本。
とにかくもう歴史のイベントが目白押しで、目の回るような忙しさだけれども、
多分これでも、目一杯要領よくまとめてあるのだろう。

慶喜の通説的な評価を一言で言えば、「一人大阪城を逃げ出した腰抜け」かな?
この本を読めば、そこに至るまでの慶喜の熟慮の過程もよくわかるし、
側近を次々奪われ、どんどん孤立無援に陥って行きながら、
周囲の過剰で無責任な期待ばかりが重くのしかかっていく様子は気の毒なくらい。
でも、本人がそのことをさほど深刻に受け止めてなさげなのが、救いといえば救いですか。
大局を俯瞰する眼力がありながら、好まざる敗軍の将を担う羽目になる世紀の貧乏くじも、
悲愴に陥らずに、結構さばさばとやり遂げてしまっているようにも見えます。
ほんとうに高貴な心のお方なんですねぇ・・(笑
何でもできる英邁な人でもあり、他人の心に斟酌しない、生粋のお殿様でもあり。

前述の「大阪城バックレ劇」のとき、会津藩主で新撰組の親玉・松平容保だけは
純粋に慶喜を心配して、護衛についてくれるのですが、
「よ、よかった。まだ慶喜に味方してくれる人がいた・・・」
などと、こっちは今までの孤立っぷりにハラハラしてた分、少しホッとしたのに、
そもそも容保を連れて出たのは会津に対する人質に過ぎなくて、
しかも無事江戸に着いたら彼のことは邪魔だから捨ててしまう、とか。おい(笑
さすがにここは「ヒデー(笑」と、声に出してしまいましたよ。
優しい人ではないですねぇ。そうそう人間的魅力に溢れたヒーローとは行きません。

女性なしでは一晩もいられない、エロ殿様ぶりも苦笑しちゃうし、
まぁそもそも、父親の斉昭公もそうだったみたいだけど。
京の宮家からお姫様を正妻にもらうのはいいけど、
ついてきた女官に手当たり次第に手をつけまくってしまい、
次々におなかが大きくなる彼女達を見て、正妻の姫が、
「どうしたみんな、病気か?」と心配したという・・・ってこれは別の本だったかも(汗
やはり京から来た、才色兼備の女官「唐橋」も、
手をつけちゃったら大奥にあげられなくなるからと言って慶喜は我慢してたのに、
斉昭公にお使いに出したら、ついでにぱっくり食べられてしまった、とか、
ここいらへんはもう、ヒド過ぎて滑稽で笑うしかないですわね。
食い散らかされた女の人たちには申し訳ないですが。

将軍に就いてわずか2年で、慶喜は政権を返上して表舞台から姿を消しますが、
その後は趣味三昧で楽しく暮らしたというあたり、凡人と違ってて素敵ですな。
権力なんか、ぜんぜん執着ないんですもんね。
徳川16代当主になる家達さん(44話に出てた亀君?)と、
引退後はそれぞれ別のルートで静岡に移るらしいのですが、
お供が多くて経済的に四苦八苦する家達サイドの家来達を尻目に、
珍し物好きな慶喜が自転車に乗って遊んでいて顰蹙を買ったとか。
そういうのってほんと、すいませんが笑っちゃう。堂々とKYを貫く男。素敵(笑

薩摩だけは生涯キライだった、っていうのも、個人的にはよく気持ちがわかりました。
長州は初めから倒幕を掲げていて、爽やかなほどはっきり敵だったからキライじゃなく
薩摩は、味方みたいな顔をしていてだまし討ちをしたからキライ、というのも、
価値観がわかりやすくて好感が持てますわ。
勿論、手段を選ばない力強さで目的を遂げた薩摩は凄いのですが、
慶喜視点で見れば、極悪人は二枚舌の薩摩なんでしょう。いいじゃん、それで。

そんな感じで、知りたいことがいろいろ勉強できた、面白い本でした。
慶喜はいい奴じゃないかもですが、やっぱり私はわりとスキです。
「篤姫」の慶喜の、あまりのマイナスオーラに当てられてこんなに勉強してしまいましたが、
あの暗い俳優さんも、これから私、少し追っかけちゃうかもしれないですねえ。
ほんとここまで来ると、私ってやはりゲテモノ好きなのか?という疑問も再燃か。
それはそれでいいじゃん!(開直
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by michiko0604 | 2008-11-06 18:30 | | Trackback | Comments(0)