2009年 04月 16日
小説「もう切るわ」 井上荒野
あの「象の背中」や白石一文の短編集中の「水の年輪」を連想しましたが、
男性からの視点で、成り行きは反対方向に極端だったその二作とは趣が違い、
女性側からのリアルな恋愛小説として、すんなりと感情移入できました。
三角関係だからって、必ずしもドロドロじゃなかろうし、かといってサラサラでもない。
妻の中の複雑な感情、温度は低いけど、怒りや執着や愛情がよく理解できたし、
愛人の、素直な思慕の情もじわじわと沁みてきて、双方にシンクロ。
真ん中にいる夫も、そりゃ身勝手には違いないんだけど、
実際男なんてこんな感じかもしれないな程度には、なんだか許してやれてしまいそう。
「もう切るわ」というタイトルの意味が描写される場面では、ちょっと泣きそうになりました。
自分の中にもあったいろんな切ない感覚を、少しずつ追体験させられる。
作者の思う壺だったみたいですねぇ。
淡々と嫌味のない、でも、心に残る小説でした。良かったです。
by michiko0604
| 2009-04-16 01:07
| 本
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