タグ:本・「か」行の作者 ( 19 ) タグの人気記事

読んでいて、たぶん実在の事件をモチーフにしてるんだろうなと思ったが、
ほかの作品のようにはすぐに思いつかず、読了後に調べたら、
一億円横領女子行員「伊藤素子」の名前に聞き覚えがあった。ああ、あったなそんな事件。
で、いつもながら、事件よりも小説は、切なくてやさしい。

冒頭は、国外逃亡中のヒロイン・リカの薄い独白から。
その後、彼女にかかわった3人の友人から見た薄いリカ像が重なり、
リカの少女時代からの物語がはじまる。
それぞれに、お金にからんだ辛い状況がからんで、厚みが加わる。

リカの行動は、「男に貢ぐために横領」というシンプルさでは語れなくて、
どちらかという自己実現、自分探しに近かったような気もした。
欲しかったのが、あの早朝の駅で感じた至幸感、万能感なのだとしたら、
一瞬で雲散霧消するようなものだとしても、彼女はそれを手に入れたということか。

夫の言動への僅かな引っ掛かりから、
専業主婦だったリカは就活をしてパートに出始め、認められてフルタイムに移行していくんだけど、
その過程がとてもリアルで自分にとって興味深く、面白かった。
こうして顧客に愛されて成績を上げ、会社にとって有益な人材になっていく、
それだけじゃダメだったのかなぁ、と、
この後確実にみんなの信頼を裏切っていくことが残念だった。

一線を越えた後の転落は、蟻地獄のよう。怖い。
でも、暗黒ではないと思う。
友人三人のお金の不幸も、悲しいけれども全てが絶望ではないと思いたい。

「私を見つけて」「ここから出して」

いつもながら、角田氏は上手。
どんどん引き込まれて読まされる。素晴らしい。

お薦めですね。
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by michiko0604 | 2013-04-07 22:15 | | Trackback | Comments(0)

実在の事件をモチーフにしていて、かなり話題になった作品らしいです。
中々縁がなく、見つけた時には嬉しかった。

都会の幼稚園を中心に、5人のお母さんたちの物語。
さまざまな性格と生活レベルながら、初めは仲睦まじかった彼女たちなのに、
ふとしたことで踏み込んだ「小学校受験」の世界に呑まれ、
それがもとで焦りや嫉妬や疑心暗鬼にさいなまれ、ど不幸になっていく。

全編、息詰まるような日常サイコホラーで、とても疲れた(これは賛辞です)。
最初、5人の母親たちと子どもたちが矢継ぎ早に紹介されて、
馴染むまではちょっと区別するのに苦労した。
DQNの繭子ちゃんは個性的でわかりやすいけど、
セレブ系の千花とかおり、地味で内向的な瞳と容子は混同しやすい。
3人の園児と3人の女児の組み合わせも含めて、仕方ないけど人数多すぎ。

入り込むのに時間がかかった要因は、人が多すぎるのも勿論あるが、
自分が、思ってた以上に「お受験」に全く関心がなかったのも大きかった。
自分はやらないにしても、メリットがたくさんあるのは理解してるつもりだし、
満願成就して幸せになってる人も大勢おいでの筈なのに、
何もこんな、揃いも揃ってマイナスにならなくても・・などと薄く思ってはみたが、
否定するとか応援するとか以前に、心から興味がなくて気持ちが寄らなかった。
残念。ここに共感できれば、倍くらい面白かっただろうに。
つまらなかったわけではなく、残る重さは充分だったのですが。

有名な事件がもとになっているので、
どのキャラが誰なのか、あの暴発はどこで起きるのかという興味も強く引かれますが、
その部分は、最終的には肩透かしかも知れない。ネタバレかな、すいません。
でも、だからこそこの小説は、さらにさらに怖くなった。さすが上手。
取り返しのつかないことが起こってしまったあの不幸な事件を、
読んで楽しむではなく、ひとつの教訓として、それから先を生きて行く。
すべての人の近辺に、強引に着地して来ます。
読み物としてのエンタ小説じゃなくて、メッセージなんですね。
どれほどこの世の終わりみたいな苦しみに見舞われたとしても、
この世は別に終わりやしない、という、これは作者の優しさなのでしょう。
そういうところが、押しつけがましくて大嫌い、という意見もありそうだ。

でも私は、そこは嫌いじゃないです。
私にとって、感動はしないけど得るもののあった力作。
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by michiko0604 | 2010-02-26 22:15 | | Trackback | Comments(0)

逝っちゃった内容を思い出しつつ書き直すより、ほんとの感想文を箇条書きにします。
この作品に限り、その方が却って良いのかも。

・和風・ファンタジー・ホラー。加えてノスタルジック。
 タイトルには二重の意味があるんですね。
 日本人のアイデンティティ。喪われたもの。

・個人的になるが、
 「神栖」「筑波山」「霞ヶ浦」「桜川」という地名が、自分にとって効果大。
 地元とは言い切れないところがミソで、馴染みがあり印象深いが、
 自分のものではない。この本に対する感覚とフィット。

・この世界での決まり事を始め、謎がいっぱい。前フリもヒキもいっぱい。
 分厚い上下巻の中でそれらがどんどん解かれていって、飽きません。寝不足必至。
 ちゃんと整合性があり、納得がいきます。練り具合がスゴイですね。
 「悪鬼」と「業魔」は、ちゃんと覚えておきませんとね。
 
・「これがどんな恐ろしい結果になるか、その時はわからなかった」
 「もちろんそれがどんなに甘い考えだったか、間もなく思い知ることになる」
 「その時、感じた違和感をもっとつきつめていれば」
 こんなんばっかり(笑)。不安を、煽る煽る。怖いですー。
 とにかく冒険とピンチの連続ですし。

・好きとか嫌いで言えば、あんまり好きじゃないかも、って気がした。
 それは、主人公たちに妙な引っかかりを感じて、感情移入し切れなかったからかも。
 敵のラスボスに、どうしても少し気持ちが寄ってしまった。ヒドイのに。
 それは自分が動物好きだからかと、途中まで思っていたが、
 そうではなく、それはある意味たいへん正しい感じ方だった。
 作者の意図通りだったのかもしれないくらい。
 ラスボスの退場シーンで、この本唯一の涙が出ました。
 良かったね、という意味で。状況は超ダークでしたけどね。

たいへん密度濃い大作で、レベル高いと思います。スゴイです。
最初にも書きましたが「和風・ファンタジー・ホラー」超能力。大流血。
それらがお嫌いでなければお薦めします。
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by michiko0604 | 2010-02-08 18:31 | | Trackback | Comments(0)

初読みの作家さん。
ここの名前を変えてから、ネットで気にとまるようになっていたので、
このたびのお目もじ。

しかしですね、散見するキーワードから「優しい恋愛小説の名手」という印象があり、
箸やすめのように、軽くさらさらと気持ちよく読めるかと思ったんですが。
勘違いでしたかね。それとも自分のチョイスがたまたまだったのか。逆襲か(謎
ここ最近読んだ中で、一番むごたらしい本でした。消耗するくらい。

中編3本。テーマは生殖、で良いでしょうか。

冒頭「卵を忘れたカナリヤ」

あまりにも生々しい不妊治療の話。
煽るような感情的な筆致ではなく、淡々と理論的に、それが却ってグロテスクに、
心身ともに傷めつけられてすべてを失っていくヒロインの地獄を描写する。怖。
身も心も痛い。普通に生きている人の無神経さも淡々と責めつけられる感じ。
欲しいのに授からない人の苦しみは、配慮するよう努力せねばと常日頃心がけるが、
ああ、どうすりゃいいのかなあ、と、絶望的な気持ちになることもある。
庶民の暮らし、そんなに大して巨大な楽しみもない中で、
子どもにまつわる喜びと幸せは、ささやかながらも強い光の宝物だ。
それを楽しむことが他者を傷つける場合、どのあたりまで遠慮すれば良いのか。
ここまで病まれると、もう何をどうしたら良いかわからなくなる。
ただ、こういう本はあっても良いと、積極的に思う。
人は誰しも自分の痛みしかわからないのですから、
それぞれ疑似体験のうえで、見える風景が変われば対応も変わるでしょう。

表題作「玉手箱」

これも不妊治療と、その先の代理母の話。
物語としては、これが一番良くできていると思います。
生々しさを突きつけられるのでなく、一般的な距離感で筋と文体を味わえる。
オハナシとして起承転結もちゃんとあり、救いもあるので消耗も少ない。
3作の中でどれかだけ読むなら、断然これがお薦めでしょうな。

ラスト「おとぎ話」

主題は「逆」と言うか、生殖としての性を嫌う奔放なヒロインの話。
前の2作と違って、唐突にエロかったりして、切り替えに困る。
生殖が隠しテーマだろうから、一貫性はあるんだろうけど、どうしてもってこともない。
で、あまり印象がない。

というわけで、軽くは読めなかったし、正直イヤな気持ちにもなりましたが、
得るものもあったと言えばあったので、もう少し読んでみようかと思います。
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by michiko0604 | 2009-11-30 22:55 | | Trackback | Comments(2)

メモでも触れましたが、映画予告の堺雅人さんのかっこよさに釣られ、
ついフラフラと文庫を購入。あんまり褒めません、すいません。

第四弾まで出ているシリーズで、小説はこの第三弾が初読み。
「チーム・バチスタ」は映画もまだ観ていなくて、TVドラマ版だけ観た状態。
ちょっとその半端さが、このいまいち感の元凶なのかな、またしても。

最初から読んでいれば、あるいはも少し緩和されたかもしれないけども、
残念ながらそもそものベース、文体があんまり好きじゃない。
状況を事実で盛り上げた後で「~が~になった瞬間だった」みたいな落とし方が苦手。
それを感じ取るのは読者の自由じゃないのか、勝手に決めんな、自己完結すんなと思う。
楽しそうだけど、なんか全般、ナルシー気味な文体だなと思う。
そのあたりがちょっと苦手。キライとまでは言わないけど。
人物描写もあんまりわかりやすくない。似たようなキャラがたくさん。
速水だけは、申し分なくかっこよかったですけどね。コミックヒーロー並に。

第三弾から読んでしまったことの最大の弊害は、これが第二弾と対だったことですね。
読み終わった後にそのことを知ったので、最初に出てきたアル中の歌姫が、
本筋にぜんぜん関わってこなかったことにすごく困惑してしまった。
歌のうまい看護師さんのミニコンサートも唐突。彼女らは第二弾の主要キャラなのね。
これは私が悪いのか?予備知識なしに読んだことが。

それやこれやで、なんだかあんまり入り込めないまま読み進んでしまったので、
中盤過ぎまでの屁理屈の応酬はただめんどくさく、
タメにタメた鬱憤の開放にも、なんか乗り切れず、
終盤に突如として出現した大スペクタクルER(謎)にも感情移入できなかった。
速水医師のかっこよさを強調したいための、ご都合主義の大惨事劇。
そこに倒れて手遅れシールを貼られる被害者は、看護師の優秀さを表現するネタなのか。
主要キャラでなく、無造作に損壊させられた被災者のほうに気持ちが寄っちゃったのは何故でしょう。
困ったかんじのまんま、感動することなく終わってしまいました。残念。

でも、白鳥さんが出てくる場面はけっこうおもしろかったですよ。
映画は、レンタルが出たら観せていただくかも知れません
TVドラマになったら、それも観ようかと。
図書館で縁があったら、バチスタからちゃんと読もうと思います。
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by michiko0604 | 2009-03-13 00:02 | | Trackback | Comments(0)

結構話題になった作品だと思うが、うちの図書館では閉架扱いなのが不思議。
メモを書いて、わざわざ取ってきてもらわねばならない。
開いてみたら、少し汚れがひどい箇所があったから、そのせいなのかな。

新潟で起きた、女児誘拐監禁事件がモチーフになっているそう。
救出後、作家としてある程度の地位を築いた被害者が、
20数年を経て、事件を小説形式で振り返る、と、穏やかに書けばそんな体裁。

とても面白く一気に読めたし、桐野作品らしい毒も「変態性」もたっぷりなんだけど、
どっちかというと、小品のほうですかね。

これは最終的には、ラブストーリーなのかなと思いましたし、
ちょっと安直かもしれないけど、それはそれで良かった。
解けない謎もあったけれど、さほど気になりませんでした。

この人とどっかで結びついて欲しい、と思った部分も叶えられたので、
まぁまぁ満足できる作品。
でも、感想を書く手があまり乗らないので、最高でもないですね。一応備忘で。
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by michiko0604 | 2008-11-06 17:29 | | Trackback | Comments(0)

メモ再掲。

 オヤジ視点だとしても(すいません)、なにげにけっこう面白かったです。
 この本の慶喜はわりとヤなヤツですが、これはこれで。
 人の目を気にしないっていうのは、個人的にキライじゃないです。
 政策者としては、ダメなんでしょうけど、だってどうしようもなかったんだから。
 そして「桜田門外の変」の描写がすごく生き生きしてて、篤姫の予習になりました。

最初、変な恋愛話から入るし、慶喜も口調がべらんめえ調でありえないし、
あーちょっとこれはダメかな、と思ったんですが、慣れれば大丈夫でした。
篤姫に関しても簡単にだけど触れてあって、そのシンプルさが却って面白かった。
つまり島津斉彬は、身もふたもなく自分の政治的謀略の手先とするために、
一族内でその任に堪え得る最優秀の姫を選び、直球で任務を授ける。
「将軍は不能者なので、女の幸福は捨てよ」まできっちり言い含めてる。
ほんとはどうたったかはわかんないにしても、有力な説のひとつなんだろう。
この本の篤姫は、それをしっかり納得し、そのつもりで輿入れしている。
ある意味、このほうがはるかにわかりやすく、説得力もありますよな。
リアルお阿呆の家定と篤姫の、それでも結構仲良しだった夫婦生活も。
短いながら描写されてます。だからまぁ借りた意味の最低限はクリアだし。

「桜田門外の変」の描写は、ほかの部分とバランスが取れないほど力入ってました。
側近の長野さんの不気味さも、楽しそうに詳しく書かれていたし、
この作者さんが一番書きたかったのは、慶喜よか井伊直弼のことなんじゃないか?
桃の節句の行事があるこの日が千載一遇だったこと、
雪という天候がテロリスト達に味方したこと、
最初の銃一発で、井伊直弼は動けなくなってしまい、後はされるままだったこと。
首謀者は水戸藩でも、とどめが薩摩藩の若者に譲られた経緯とか、全て興味深く。

慶喜については、好色で薄情で自分中心という、あんまり芳しくない主人公。
篤姫のなかで、帝に許しを得ずに独断専行した井伊直弼に抗議に行った時、
あ、ちょっと頑張り始めた!と慶喜の評価を上げた私だったのだが、
この本によると「慶喜が自分から動いたのは、この時が最初で最後」だそうだ(笑
作者氏は彼のことを「外国が好きで真似がうまくて、日本人そのもの」と評するが、
いやー、うまいこと言った、ともしかしたらお思いかもしれんのだけど、
日本人の特性と、決定的に違うこところがあるじゃないですか。
それは「他人の評価をぜんぜん気にしない」というとこですよ。

井伊様の次の人も襲われたので、慶喜再登場も近そうですね。
孝明天皇が、彼を大プッシュするそうです。仲良しらしいです。
和宮の許婚だった王子様は、同じ有栖川宮家で親戚らしいです。
というようなことも予習できたので、いろいろためになる本でした。
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by michiko0604 | 2008-08-27 23:25 | | Trackback | Comments(0)

夫に恋人がいることを知った33歳の主婦・のゆりが、
怯え、困り果て、途方に暮れながらも、
少しずついろんなものと向き合って成長していく話。
ふわふわしながらグサリと鋭い、いつもの川上テイストは薄め。
語弊があるかもだけど、軽めでちょっとかわいいお話でした。
だって、特に何も書くことがないもんな(笑

当初、パートナーの浮気って、こんなに人を傷つけるんだなぁ、
とか普通のことを感じていたんですけど、そういうありがち話でもなかった。
状況は大して深刻にはならず、ただ少しずつ、よわよわだったのゆりが、
「怖いもの」に立ち向かう力をつけていく。その過程。
まぁ悪くはなかったです。雰囲気もあり、読みやすく。
ラストも、ぐだぐだともいえるけど、ちょっと溜飲下がるかもだし。
「許してやれば?」という気持ちになっちゃうのは、甘いですかね。

余談。知り合いの友だち、ここでもどっかで書いた「椎茸が嫌いなようにお前が嫌い」と、
借金癖のある旦那さんに言われた人が、最近離婚したらしいんですが。
やっぱり旦那さんには恋人がいた、らしい。奥さんには落ち度ないのに、ヒドイ話。
夫婦のあり方、考えさせられました。いろんなケースで。

余談2。「主婦の成長物語」という部分しか共通点ないですが、
若い頃に読んだ、田辺聖子「お目にかかれて満足です」を何故か連想した。
主観もいいところで、あらためて考えてもかなり遠いけど、
これはこれで、たいへん面白いです。
独身だった自分が、こういう主婦になりたい、と思ったことを覚えている。
でも彼女たちは子どもがいないので、(まぁ、年齢的にも遠くなっちゃったので)
今となっては、自分の身に置き換えられる部分はあんまり多くないのだが。
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by michiko0604 | 2008-05-27 00:49 | | Trackback | Comments(0)

絵本が評判になって、アニメ映画もたぶんそれなりにヒットして、
しばらくしてTVで放送されたのを見たのですが、
なんかどうも、自分としては、納得できないものがあり。
自分の意思ではどうにもならない、種族の属性に逆らってまで、
貫き通さなければならない「友情」というのは、果たして普遍的なのか?
一般人にとって、何かしら学ぶべきもの、感じるべきものがそこにあるのか?
それとも、単なる突然変異的レアケースを、野次馬的に眺めるだけなのか?
いや、まさかな・・・。感動してる人が、あんなにいるんだし。
このたび図書館で小説版をみつけたので、
こういう形で読んでみれば、疑問も解け、もしかして素直に感動できるだろうか?と、
補完もしくはリベンジの気持ちで、借りてみまして。

少々残念ながらこの本は、映画版に添った内容で、
かつ男女間の恋愛設定になっているので、狭い範囲の補完しかできなかった。
ただ、そのためにテーマとしてはシンプルにわかりやすくなっているので、
彼らがお互いを思いあうかわいいラヴの描写は、オーソドックスに感情移入でき、
この本単体としては、ラヴストーリーとして、まずまず良かったです。
そんなに斬新なものではなくなってしまうにしても、
プラトニックな「ロミオとジュリエット」、もしくは「失楽園」?さすがに遠いか?
社会性や共同体の責任よりも禁断の愛に殉ずる、という意味で、どうでしょう。
食欲=個体保存の本能よりも、精神的な結びつきを重視するというあたりは、
自分にとっても好みですし、是非はともかくとしても、理解はできました。

映画ではハッピーエンドのようにぼかされたラストシーンも、
これも賛否両論ありそうですが、整合性はあるんじゃないかと思います。
どうやって明るい未来が開けていくというんだ!という点が、一番納得行かなかったので。
でもこれ、児童文学なんですかね?あんまり子どもに読ませたいとは思わないですね。

やっぱり、本当の値打ちを自分の目で見きわめるには、
横着しないで絵本を読むしかないでしょうか。
それじゃちょっと、もういいかな、別にわからないままでも・・って気もしますが(横着・・)。
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by michiko0604 | 2008-05-09 16:02 | | Trackback | Comments(0)

とめどない世の中に、しょうもない男の物語。でも切ない。

ニシノユキヒコ(西野幸彦)という男の、中学生から50代までの恋愛遍歴を、
彼と濃密なひととき(直截的な意味ではない)を過ごした10人の女性の視点から。
連作短編集ということになるのか。

「恋と冒険」とはいうものの、ニシノくんは日常のなかで普通に恋愛するだけで、
一見、別に冒険はしない。びっくりするような奇抜な事件は、全然起こらない。
ただ彼女たちはニシノくんと出会い、恋愛的な状況に陥り、やがて離れていく。
その繰り返し。いちおうニシノくんは真実の愛を探してるらしいので、それが冒険か。

そんな話のどこがおもしろいのかというと、
一番おもしろいのは、言葉の扱われ方かもしれない。
意図的に多用されるひらがな表示と、やや硬い文語的な言い回しの絶妙なバランス。
軽妙な詩のような文体に油断していると、時たま、チクリ、またはグサリと刺し込まれる。
痛いんだけど、その痛みは甘い。ヤバイ(笑)。
洗って磨いた人工の砂浜で、さらさらと砂遊びをしていると、
時々光る石やきれいな貝殻が埋まっているのを見つけるような。
・・とでも言えば、自分の感覚としては近いんですが。

10人の女の人たちは、バリエーションに富んでいるようにもみえるが、
みんな、賢くて理性的で誇り高い、似通った部分があるように思う。
彼女たちの多くはニシノくんの「滑らかに上の空」な本質を見抜くし、
「真摯に向き合ってくれていない」「愛されていない」ことに気づくと、
自分の気持ちに折り合いをつけて、離れていく。
女性関係のお盛んな人なら特に、こんなきれいな別れ方ばかりってわけにはいくまい。
どんなに惨めでもみっともなくても、間違っていても、
褪せた恋愛にしがみつく女の人は数知れない。
でも、そういう傾向の人は、そもそも恋愛関係になるほどはニシノくんに近寄れないのか。
ある程度の自制心を持った潔い女性だけが、ある意味贅沢な思い出を手にできる。

彼女たちの中で、特に印象に残ったのは、まずはマナミさん。
この人の賢さは群を抜いてる。警戒しすぎだけど。彼女の話は、ひとつの柱だと思う。
その後のエリ子さんや、名前忘れたけど作家の彼女なんかは、このバリエに見える。
でもエリ子さんも好き。猫がいなくなって寂しい彼女が好き。

「草の中で」の、中学生の彼女も好き。
ニシノくんに流されることなく、彼という人と、自分に起こった出来事の本質を正確に捉えて、
その上で、「自己」と「他者」の概念を把握してBFに向き合おうと決める彼女は鮮やか。

それから別の意味で、ササキサユリさん。好みで言えば、この人が一番好き。
このとき37歳ののニシノくんより10歳以上年上で、50代で孫もいて、
何十年もきちんと専業主婦をしていて、人目に立つようなことはないけど、
主張しないけど誇り高く、ユーモアがあって視点が鋭くて感性も豊か。
だからニシノくんにかかわることになった。と、思う。
ほかの女性と違ってわかりやすい恋愛関係にはならないけど、
やっぱり恋だったと思う。ただ電話で話すだけでも。最後まで受身でも。
3ヶ月苦しんだ末の「ニシノくん、さよなら」にはどっかがグサリと穿たれた。
私も10年経ったらマリモを買おうか。忘れていなければ。

彼女たち全てにとって、ニシノくんは「運命の人」だったなと思う。
それはもちろん、一生にただひとりのベターハーフ的な運命じゃなくて、
それぞれの人生に、とても大きな影響と刻印を残す、いくつかのポイントのひとつ。
ニシノくんは不実で身勝手でしょうもないヤツなのも確かなので、
彼に好意的になれるかどうかが、この本の評価の別れ道かも。
そして私は、サユリさんのようにニシノくんに会いたいなーと、
ちょっとヒソカに考えてみるわけです。とりとめもなく。
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by michiko0604 | 2008-05-03 00:11 | | Trackback | Comments(0)