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島本理生さん

こないだ書きかけだったのを、まとめておこうかと。

このようなお話には、読み手の土壌の中の共通認識が影響でかい、というのにも繋がる。
最初に読んだのは、やっぱり話題になった「ナラタージュ」。
「買って帰ると、忙しいのに読んじゃって時間がもったいない、と思って、
店先でちょっとぱらぱらめくってみたら、気がつくと2時間かけて全部読んでた。
意味無かったよ、買って帰れば良かったよ(笑)」
・・・と、多忙でクールな姉をそこまで引き込んだのかナラタージュ、
どれどんなもんなんだお手並み拝見してやるぞ、みたいな。
それでどうだったかって言うと、正直、悪くはないけど期待したほどではなかった。
場面転換もぎこちなくて会話も硬くて、こんな喋り方するか?みたいなところで引っかかり、
なんか、真面目で書き物好きな若い女の子が、一生懸命頑張って書いた作文、っていう
申し訳ないけどそんな印象でした。さくさく読めたのは確かだけど。
自分が今高校生かそれに近い年代だったり、先生に恋をした経験があったりしたら、
もっとがっちり入り込めて泣くほど感動したかもしれない。
考えてみると姉も、評価については言及してなかったな。

読む時点で、島本さんについての予備知識はなく、後で少し、
一時まとめて話題になった若いねえちゃんらのひとりなのか?程度の、
いろんな意味でちょっと失礼なくくり方を、暫くしちゃっていました。

でも、その後読んだ「リトル・バイ・リトル」「シルエット」「生まれる森」は、
どれも良かった。それらに比べて「ナラタージュ」が悪いということではなく、
さほどな劇的な事件も何もあるわけではない淡々とした作品群で、
読んで「だからどうした!」と時間の無駄感にとらわれる向きもあるかも知れない。
それでも、力の抜けたきれいな文章で、日常の、なだらかだけど微妙な機微を、
みずみずしい視点で書き出していく様子が、感動するほどじゃないけど好もしかった。

一番好きなのが「一千一秒の日々」
主役的な視点の若者の、友人や恋人に当たる脇役が次の作品の主役になっていく、
連作短編集。これこそ、なんということもない話ともいえるのだけど。
例えば、長く付き合って少し倦怠気味だった恋人同士が、ひさしぶりに都合を合わせて
遊びに出かけ、いつものデートよりも少しだけ密度濃い豪華なイベントを過ごす。
その最後に彼氏から「ごめん。やっぱりダメみたいだ」と告げられる瞬間の悲しみとか。
不実な恋人に苦しめられている若い女性が、弟(妹?)の家庭教師に甘えようとして
「あなたは、僕が今でも別れた恋人を大切に思っていることが羨ましいだけだ」
みたいにシャレにならない部分を言い当てられて拒絶される時の・・
これは視点が家庭教師のほうなので、彼女の心情は描かれないけれども、
その時は、痛ましい彼女のほうにシンクロしてしまいました。
そのような体験が、まんま自分にあるというわけではないんだけど、
どこか自分の中のいろんな場所にある琴線に、軽くかすっていったのは確かで。

ナラタージュよりこちらが好きだというのは、
結局個人的な嗜好にすぎないのかもしれないんですけどもね。
by michiko0604 | 2007-02-09 23:42 | | Trackback