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小説「用心棒日月抄 凶刃」 藤沢周平

書かずにいるうちに時間が経っちゃってるので、取り急ぎ。シリーズ最終章。

といっても、タメておいたのは、意外にこれが一番好きだからかもしれません。
たくさんのエピソードが積み重なる連作短編集も、それはそれで味わい深いのですが、
特に複雑な修飾もないシンプルなストーリー一本の長編も、
わかりやすく、はいりやすくて好きかも。

前作から16年が過ぎ、又八郎は中年太りのおじさんになって、
それなりに役がついた働き盛りのおとうさんとして、日々を忙しく暮らしている。
で、例の「嗅足組」の解体に関わる陰謀と危機を交通整理するため(?)、
四たび単身江戸に派遣されるんだけど、
今までは、普通に脱藩だったり、上司が気が利かなくてお金もらえなかったり、
やっと持たせてもらえたまとまったお金を泥棒に取られたりして、
選択の余地なく職安(違)に通って用心棒稼業に精出すしかなかったのだけど、
今回はさすがに、藩の仕事として身の回りの世話もしてもらえるし生活の心配がなく、
その点だけでも、これまでのシリーズとは全然違う流れになるのは当然。

それにしても「16年後」には驚いた。
又八郎は中年太りしたが、奥さんは、歳は取ったもののほっそりして今も変わらんそうだ。
佐知も、あんまり変わってないらしい。このへん男性の願望ですよな。
あんなふうに別れておいて、佐知、16年間ほったらかしかよ、というのもややショック(笑
相模屋さんは、まぁもう歳も歳なんで仕方ないところもあるけど、
細谷源太夫の境遇の悲惨さはどうしたことだ。奥さんの最期もひどすぎ。
でもこれも人生なんですね・・・かなり苦くて渋いけど。

ラストシーンはいよいよ最後ということで、愛読してきた皆さん、来るものがあったのでは。
もしも今の時代に連載されていたら、同じ気持ちの人を求めてネットにくっついたかも。
「おじゃま虫」なんて言葉が使われてたことには笑ってしまいましたが。
もういよいよお別れか、二度と会えないのか、あの日々は戻らないのか、という
又八郎の感傷に同調してしまったし、その象徴としての佐知との別れが切なかった。
(でも、佐知にとっては、私生活は又八郎のことが全てといっていいくらいなのに、
 又八郎にとっては、江戸の波乱に満ちた暮らしの象徴でしかないのかよ、という
 「男ってしょうもな」感は幾度となく去来した)
だから最後の最後の幕切れは、素直に嬉しかったですわ。
地元には奥さんがー、というのもひとかけらよぎりつつ、まぁもういいだろ、みたいな。
最後まで藤沢センセイの思う壺だったのでした。
by michiko0604 | 2007-05-08 00:40 | | Trackback