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小説「 アイムソーリー、ママ」 桐野夏生

なんだこの話は(笑)。いや、すごい話でしたが、大変おもしろかったです。

娼館の片隅で生まれ、施設でも誰にも愛されずに育ったアイ子が、
40代の今も、思いつくまま目につくままに悪事を重ねていく、とんでもない話。
愛に飢えた哀れな女の悲劇だとか、社会の暗部の告発だとか、
そんなようなシリアスさとはあんまり関係がない。
いちおう、母親への思慕に基づいたルーツ探しみたいな展開もあるのだが、
その結末はあまりに無残。作者もかなりひどい。でもそれがむしろコミカルに描かれる。

アイ子の悪行は実にシンプルで短絡的、彼女は常に悪意に満ちていて、
気に入らないヤツを迷わず強引にぶっ殺し、ヤバくなったら逃亡する。
とにかく第一章から唖然とした。人によっては気分悪くなるかも。
もと保育士と施設の園児だった、25歳違いの夫婦の、結婚20周年の記念日から
物語が始まるんだけど、その冒頭から、作者の筆致が既に悪意に満ちてる。
よくまぁここまで悪趣味な空気を作り上げられるものだと変な感心をしてしまうが、
からりとして間抜けで滑稽なので、なんだか笑ってしまうしかないような。

「感動」「さわやか」「いい話」みたいなキーワードとは無縁。てか対極。
それでもラストでは、反社会的な人が苦手なはずの私のような小市民が
「どうしたアイ子、しっかりしろ。それで終わりか。がんばれ、最後に一矢報いるんだ」
みたいな気持ちになってしまったのはどうしたことだ。
これは一種のピカレスクロマンなんですね。
いつのまにかアイ子が可愛く思えてきます。
オススメってほどではないが、読んだ人の意見を聞きたい感じ。
by michiko0604 | 2007-11-11 02:42 | | Trackback